同じ〝肥満細胞腫〟でもその悪性度や発生場所など様々な条件で治療の見通しは大きく変わってきます。治療の見通しの指標『予後因子』について解説していきます。
犬の肥満細胞腫 予後因子
- 組織学的グレード
- 臨床ステージ
- 発生部位
- 細胞増殖率
- 増大速度
- 再発
- 全身症状
- 犬種
- 腫瘍サイズ
- KIT遺伝子の変異
『予後因子』とはその病気が今後どうなるのかを判断する指標となるものです。 治るのか?、再発するのか?、寿命はどれくらいになるのか?などの予想に使われます。
犬の肥満細胞腫 組織学的グレード
最も一般的に用いられる予後因子です。犬の皮膚肥満細胞腫に関しては3段階に分類するPataik分類がよく利用されています。組織学的グレードは病理検査で判定します。したがって、手術を行わないとこの判定が出来ません。
- グレード1:高分化型
- グレード2:中等度分化型
- グレード3:未分化型
臨床ステージ
世界保健機構(WHO)によって臨床ステージ分類が定められています。
- ステージ1
・1つの腫瘍で皮膚に限局している。周辺のリンパ節への転移がない。 - ステージ2
・1つの腫瘍で皮膚に限局している。周辺のリンパ節への転移がある。 - ステージ3
・多発性または大きく浸潤性の腫瘍。 - ステージ4
・遠隔転移を伴う腫瘍、あるいは転移を再発する腫瘍。
発生部位
以下の部分に出来た犬の肥満細胞腫はその他の皮膚に発生したものと比べて、リンパ節転移を起こしやすかったりと予後が悪い可能性があります。
- 爪下
- 口腔粘膜
- 口唇粘膜皮膚移行部
- 皮膚以外(口腔咽頭、鼻腔内、内臓型)
細胞増殖率
病理検査で腫瘍細胞の増殖活性を評価します。
増殖活性が高いものは予後が悪い傾向にあります。
- 有糸分裂指数(MI)
- Ki-67
- 好銀性核小体形成領域(AgNOR)
増大速度
数ヶ月以上あまり大きくならないものは悪性度が低いことが多いです。
再発
手術をしたあとに、局所再発(手術部位に近いところでの再発)を起こす場合は予後が悪くなることが多いです。
再発を起こした場合には、発生場所やその悪性度によって、2回目の手術・放射線治療・抗がん剤治療を使い分けます。
全身症状
以下の全身症状がある場合には、予後が悪くなることが多いです。
- 食欲不振
- 嘔吐
- メレナ
犬種
以下の犬種では比較的予後がいいことが多いと言われています。
- ボクサー
- パグ
- ゴールデンレトリーバー
腫瘍のサイズ
大きな腫瘍では予後が悪い傾向があります。
KIT遺伝子の変異
遺伝子変異(c-KIT)は肥満細胞腫の発生や増殖に大きく関わっているといわれています。
犬の肥満細胞種の9〜26%がこのc-KIT変異を保有していると報告されています。
このc-KIT変異を保有する肥満細胞腫はこれを保有しない肥満細胞腫に比べて予後が悪いと報告されています。
まとめ
犬の肥満細胞腫は文献レベルでも〝予測不能〟といわれる程、その子その子によって全く違う治療経過をたどります。その中でも、治療の見通しを予測するための指標〝予後因子〟がいくつか報告されています。現在は〝組織学的グレード〟での評価が主流ですが、その他の予後因子を組み合わせて、治療の見通しを立て、それに沿った治療を選んでいきます。
- 肥満細胞腫の病態と診断アプローチ Conpanion Animal Practice,No.327
- Small Animal Internal Medicine 4th