呼吸が苦しい犬のための緩和ケア|ご自宅での酸素室の使用について
酸素室は、動物を高濃度の酸素環境に置くことで動物の呼吸をサポートするものです。
心臓病や肺炎、腫瘍の末期症状として呼吸に苦しむ動物の緩和ケアによく利用されます。
ほぼすべての動物病院に備えられている設備ですが、様々なメーカーから家庭用のレンタル酸素室が出ており、ご自宅で利用することができます。
しかし、獣医師から酸素室の利用を提案された飼い主様からは、
「酸素室を置くのは大変そう」
「酸素室に入れたらもう触れ合えないの?」
「酸素室内でも具合が悪くなったらどうしたらいい?」
などの不安な声をよく聞きます。
そこで今回は、ご自宅での酸素室の使用に悩まれている飼い主様に向け、
- 酸素室が必要な病気
- 酸素室の使い方
- 酸素室使用中に急変したらどうしたらいいのか
を解説します。

ぜひ最期までお読みいただき、ご自宅で酸素室を利用する際の参考にしてください。
酸素室とは
酸素室は、さまざまな理由で酸素をうまく取り込めなくなった動物に、高濃度の酸素環境を与え、呼吸をサポートする器具です。
呼吸には体に酸素を取り込んで、体の二酸化炭素を外に出す役割があります。
酸素は動物が生きるうえで欠かせないものです。
酸素をうまく取り込めなくないと、全身が酸欠状態に陥り、やがて亡くなってしまいます。
通常の環境では十分な酸素を取り込めない呼吸困難な動物であっても、酸素濃度の高い空気を吸うことで、無理なく酸素を体に取り込むことができます。
人間の場合は酸素マスクを利用することが多いですが、動物にずっとマスクをつけるのは難しいため、空間の酸素濃度を上げる酸素室が必要です。
家庭用の酸素室には購入とレンタルがあり、サイズも犬の大きさに合わせて選ぶことができます。
どんなときに酸素室が必要になるの?
酸素室が必要になるのは、心臓病の末期や呼吸器の病気などで呼吸が苦しいときや、貧血などで全身に酸素がうまく行き渡らないときです。



以下に、それぞれ詳しく説明しますのでご参考になさってください。
僧帽弁閉鎖不全症の末期
酸素室を利用することが多い病気のひとつが、僧帽弁閉鎖不全症です。
僧帽弁閉不全症は高齢の小型犬に多い心臓の病気で、心臓のポンプ機能が弱まり、血液の渋滞を起こして全身が高血圧状態になります。
末期になると血液中の水分が肺に漏れ出て、肺水腫を起こし、呼吸がうまくできず酸素がたりなくなります。
肺水腫は命に関わる危険な状態です。
治療にうまく反応し肺の水が抜ければ、適切な治療と管理をすればご家庭で過ごすことができますが、治療への反応が乏しい場合は酸素室での療養が勧められます。
肺水腫では溺れ続けるような苦しみを味わうため、眠れない犬も多くいます。
こうした状態の犬も、酸素室に入ることで呼吸が楽になり、眠れるようになる子が多いです。
僧帽弁閉鎖不全症に限らず、心臓病の末期には呼吸困難に陥ることが多く、動物病院での集中治療が必要なケースも少なくありません。
しかし、在宅酸素室を利用すれば、最期までご家庭で飼い主様と一緒に過ごすことができます。
呼吸器の病気
肺炎や気管支炎、肺気腫、肺腫瘍、気管虚脱などの呼吸器の病気で呼吸がうまくできなくなった場合も、酸素を取り込みやすくして呼吸を楽にするために、酸素室を使用します。
ご自宅で酸素室を利用する場合の多くは終末期の緩和ケアとして使用しますが、動物病院では集中治療のために使用する場合もあります。
胸腔内の腫瘍
肺や心臓を収める胸腔内の腫瘍や、それに伴う胸水・血胸などで肺が圧迫されると、呼吸がうまくできなくなります。
このような状態の動物に対して、呼吸をサポートするために酸素室が利用されます。
ご自宅で使用する場合のほとんどは緩和ケアとして利用しますが、動物病院では集中治療のために利用することもあります。
貧血を起こす病気
慢性腎臓病の末期、免疫介在性溶血性貧血、腫瘍、大量出血などで重度の貧血状態に陥った場合に、酸素室が必要になることがあります。
肺から取り込まれた酸素は、血液中の赤血球が全身に運びます。
しかし、貧血で赤血球が不足すると、たとえ呼吸が正常に行われていたとしても全身に酸素が行き渡りません。
このような場合は、酸素を効率的に取り入れることができるようにするために酸素室を利用が必要になります。
ご自宅での酸素室の使い方
細かな使い方はメーカーにより異なりますが、基本的には酸素濃縮機とケージをホースでつなぎ、電源を入れ、そこに動物を入れるだけです。
ご自宅でも飼い主様が無理なく使えるよう、設置に際してはメーカーや獣医師が使用についての説明をします。
酸素室が必要な犬は酸素室から出すと呼吸が苦しくなってしまいますので、基本的には酸素室には入れっぱなしにすることをおすすめします。
カーテンなどを使って出入りを自由にすることもあるようですが、酸素濃度が下がってしまうため、必ずかかりつけの獣医師の意見を聞きましょう。
犬によってははじめは入るのを嫌がるかもしれません。
しかし、酸素室に入った方が呼吸が楽だと気づけば、すぐに自分から進んで入るようになる犬が多いです。



なお、入れっぱなしだとしても1時間に1回は様子を見てあげることをおすすめします。
酸素室から出すときの注意点
触れ合いや抱っこ、食事や排泄の介助で酸素室から出す場合は、絶対に目を離さないようにしましょう。
呼吸が苦しそうになったり舌が青色っぽくなったりしたら、すぐに酸素室に戻してあげましょう。
舌が青色になるのは、チアノーゼと呼ばれる酸欠状態を示す症状です。
酸素室にマスクが付属されている場合は、酸素室から出している間はマスクを口元に添えてあげましょう。
その場合も、呼吸の様子や舌の色を確認するのを忘れないようにしましょう。
酸素室使用中の犬の通院について
酸素室が必要な動物は、基本的に酸素室の外では呼吸がうまくできません。
短時間でも呼吸が苦しくなり、すぐにチアノーゼを起こしてしまうでしょう。
このため、獣医師の診察は可能な限り往診を利用することをおすすめします。
どうしても通院が必要な場合は、酸素室での移動が可能なサービスを利用しましょう。
かかりつけの獣医師の指導の元であれば、携帯酸素缶の利用もいいかもしれません。



当院には、酸素室での通院サービスを備えております。
ご希望の方はお気軽にご相談ください。
酸素室内で容体が急変したら
酸素室を利用していても、呼吸が苦しくなる、ぐったりとするなど、容体が急変することがあります。
悲しいですが、緩和ケアで酸素室を使用している動物には、お別れが近い子がたくさんいます。
酸素室内で容体が急変した場合、治療を継続するか、そのまま看取るかは、あらかじめかかりつけの獣医師とよく相談しておきましょう。
このことを踏まえて、酸素室内で容体が急変した場合に何をしたらいいかを、以下に紹介します。
モニターやケージを確認する
酸素室が正常に機能しておらず、十分な効果を得られていない場合があります。
機械が正常に動いているか、コンセントやモニターを確認しましょう。
ケージが空いている、破損しているなどでも、酸素濃度は下がります。
異常はないかを確認しましょう。
かかりつけ医に連絡する
酸素室自体に異常がない場合は、かかりつけの獣医師に連絡しましょう。
時間外や休診日で連絡がつかない場合もありますので、あらかじめ緊急の連絡先や夜間救急について確認しておきましょう。
獣医師との相談のうえ、回復が見込める場合は治療を継続するのも良いですし、ご自宅でそのまま看取るのも良いでしょう。
自宅で看取る
酸素室内でも呼吸が苦しそうになるのであれば、お別れのときがきたのかもしれません。
回復が見込めない場合は、最期を見届けてあげましょう。
優しく声をかける、触れてあげることで、愛犬が安心して旅立てるでしょう。
まとめ
今回はご自宅での酸素室の使用についてお話ししました。
酸素室は、呼吸が苦しい犬の呼吸を楽にしてくれるものです。
酸素室の利用により、心臓病や肺の腫瘍の末期でお別れが近い愛犬であっても、ご自宅で心身ともにリラックスして過ごすことができます。当院は“最期まで寄り添う動物病院”を志し、2024年4月に開業した在宅緩和ケア専門病院です。
苦痛を減らし、穏やかに生活ができるようお手伝いいたします。
訪問診療やオンライン/電話相談、酸素室での通院も可能です。



ご自宅での酸素室の利用や、訪問診療、酸素室利用中の通院について、質問やご相談があれば、お気軽にご相談ください。

