犬のリンパ腫|寛解を目指すための治療について獣医師が解説

犬のリンパ腫まとめ

リンパ腫の治療は〝寛解〟の状態を維持していくことが目標になります。寛解〟とは症状が安定して落ち着いている状態で、見た目上は治っているように見えます。リンパ腫のタイプによって、この寛解の状態に持っていけるのか、もしくはどれくらいの期間寛解の状態を維持できるのかが変わってきます。

目次

犬のリンパ腫とは?

リンパ腫とは、体の中のリンパ球が腫瘍化する病気です。リンパ球は体の免疫機能を担う白血球の1つです。固形臓器(リンパ節、肝臓、脾臓など)に発生するリンパ系悪性腫瘍で、骨髄で発生するリンパ性白血病とは区別されています。6〜8歳齢の中高齢で多く発症します。リンパ腫は高悪性度リンパ腫と低悪性度リンパ腫に分けられ、その治療法や治療の見通しは大きく変わってきます。

犬のリンパ腫の原因は?

  • はっきりとした原因は分かっていない
  • 何らかの遺伝子の異常によって起こると考えられている

犬のリンパ腫の発症は?

  • 6〜8歳での発症が多い
  • あらゆる年齢で発生する
  • 1歳未満での発症は稀

犬のリンパ腫の種類は?

発生場所による分類
  • 多中心型リンパ腫
    ・全身性のリンパ節腫大
    ・多中心型リンパ腫は犬では最も一般的で、犬のリンパ腫の80%以上
  • 消化器型リンパ腫
    ・胃腸管にできるもの
    ・犬のリンパ腫の5〜7%
  • 縦隔型リンパ腫
    ・縦隔リンパ腫大
    ・犬のリンパ腫の約5%
  • 皮膚型リンパ腫
    ・皮膚にできるもの
    ・犬のリンパ腫の5%以下
  • その他のリンパ腫
    ・腎臓、神経、眼などにできるもの
    ・犬のリンパ腫の5%以下
悪性度による分類
  • 低悪性度
  • 中間悪性度
  • 高悪性度

細胞診と病理検査で判定します

免疫学的な分類
  • T細胞性リンパ腫
  • B細胞性リンパ腫

犬のリンパ腫の症状は?

どのタイプでも起こりうる症状
  • 体重減少
  • 食欲不振
  • 元気消失
  • 多飲多尿(高Ca血症の時)
多中心型リンパ腫に起こりやすい症状
  • 全身のリンパ節の腫大
  • 呼吸が荒い(ゼーゼー)
  • いびき
消化器型リンパ腫に起こりやすい症状
  • 嘔吐
  • 下痢
縦隔型リンパ腫に起こりやすい症状
  • 多飲多尿
  • 呼吸困難
  • 発咳
  • 吐出
皮膚型リンパ腫に起こりやすい症状
  • いろいろなタイプの皮膚病変
その他のリンパ腫に起こりやすい症状
  • 中枢神経系リンパ腫
    👉様々な神経症状
  • 眼リンパ腫
    👉盲目、眼脂、羞明(目がショボショボ)
  • 腎リンパ腫
    👉多飲多尿
  • 肺リンパ腫
    👉呼吸困難、発咳

犬のリンパ腫の診断は?

  • 身体検査
    ・体表リンパ節の腫大
  • 血液検査
    ・血液中に腫瘍細胞が認められることががある(ステージ5)
    ・貧血
    ・血小板減少症
    ・高Ca血症
  • 血液凝固系検査
  • 細胞診(FNA:針吸引)
    ・リンパ節の細胞診
     →リンパ腫かどうかのチェック
    ・肝臓・脾臓の細胞診
     →転移のチェック
  • 病理検査
    ・診断の確定
  • 遺伝子検査
    ・リンパ腫の診断補助(T/B細胞系統の鑑別)
  • 骨髄検査
    ・骨髄への転移をチェック
  • レントゲン検査
  • エコー検査
  • 尿検査

①リンパ腫かどうか?
②リンパ腫の場合には高悪性度なのか低悪性度なのか?
をチェックします。高悪性度か低悪性度かで、治療方針や治療の見通しは大きく変わってきます。

犬のリンパ腫の治療は?

高悪性度リンパ腫の治療

  • 化学療法(抗がん剤治療)が中心
    ・ビンクリスチン、シクロホスファミド、ドキソルビシン、プレドニゾロンを組み合わせたCHOP療法が第一選択
    ・1〜2週間に1回の抗がん剤注射を約6ヶ月継続する方法が主流

低悪性度リンパ腫の治療

  • ①リンパ節腫脹などによる呼吸困難などの症状  
    ②元気食欲などの一般状態の低下
    ③血球減少症(貧血、好中球減少症、血小板減少症)
  • 上記の該当がなければ無治療で経過観察
  • 上記の1つでも該当すれば抗がん剤治療を検討
    (クロラムブシルまたはメルファランとプレドニゾロンを併用)

孤立した病変がある場合や、特定の部位の病変によって著しく生活の質が落ちる場合には、外科治療や放射線治療も考えます。

犬のリンパ腫の治療 抗がん剤治療の副作用は?

主な副作用
  • 骨髄抑制
    ・好中球減少症、血小板減少症
    ・免疫力の低下
  • 消化器毒性
    ・嘔吐、下痢
  • 肝毒性
  • 腎毒性
  • アレルギー

それぞれの抗がん剤で注意すべき副作用が変わってきます。

犬のリンパ腫の治療のみとおしは?

  • リンパ腫は多くの場合、命に関わる病気。
  • リンパ腫の種類によって、治療法や治療の見通し(予後)が大きく変わってくる。
    ・高悪性度リンパ腫or低悪性度リンパ腫
    ・遺伝子型:T型orB型
    ・発生場所による分類

多中心型リンパ腫
(B細胞型高悪性度リンパ腫)の場合

  • 犬で最も典型的なリンパ腫。
    化学療法(抗がん剤治療)への反応が良い。
  • 化学療法(抗がん剤治療)に反応する割合は90%。ただし、そのほとんどで再発する。
  • CHOP療法(抗がん剤プロトコールの1つ)を行った場合の平均的な生存期間(中央値)は約1年。
    T細胞型の場合には半年未満。
  • 抗がん剤治療を行わない場合には、ほとんどが1ヶ月以内に死亡。

その他のタイプの高悪性度リンパ腫の場合

  • 多中心型リンパ腫と比べると抗がん剤への反応が悪い傾向。
  • 消化器型リンパ腫、皮膚型リンパ腫では抗がん剤治療での平均的な生存期間は数ヶ月。

低悪性度リンパ腫の場合

  • 3年以上生存する例も少なくない。
  • リンパ腫が死因とならないことも多い。
在宅緩和ケア専門動物病院「犬と猫の緩和ケア」
  • Small Animal Internal Medicine 4th
  • Withrow &MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology 4th
  • 『犬のリンパ腫のインフォームドコンセントのために』SA Medicine Vol.14  No.2  2012
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