門脈体循環シャント(PSS)は、血管同士の近道が出来る血管奇形の病気です。生まれつきの先天性PSSと慢性肝炎や肝硬変に続発する後天性PSSの2つがあります。
目次
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)とは?
まずは体の仕組みを
消化管で吸収された栄養分は血液と一緒に門脈という血管を通って肝臓に運ばれます。肝臓ではその栄養分を蓄えたり、一緒に吸収された毒素を解毒したりします。その後、肝臓で〝栄養分〟と〝毒素〟という『積荷』を降ろした血液は、大静脈に流入して全身循環に入ります。
本題の門脈体循環シャント(PSS)
門脈体循環シャント(以下PSS)では、この門脈と大静脈の間に近道(シャント血管)が出来て、『積荷』である〝栄養分〟と〝毒素〟が無駄に全身循環に入ってしまいます。そのため、肝臓の栄養分が不足したり、毒素の解毒が出来ないため、成長不良や神経症状などが現れます。生まれつきの奇形として、シャント血管を作る先天性PSSと、慢性肝炎や肝硬変に続発する後天性PSSに分けれらます。さらに、シャント血管の発生部位によって、肝外シャントと肝内シャントに分けられます。
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の原因は?
先天性PSSの原因
- 遺伝性
後天性PSSの原因
- 門脈圧亢進症を引き起こす病気
👉肝炎
👉肝硬変
👉門脈低形成
👉微小血管異形成 など
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の発症は?
犬の場合
- 先天性PSSの好発犬種
👉ヨークシャー・テリア
👉シー・ズー
👉マルチーズ
👉トイ・プードル
👉ミニチュア・ダックスフント
👉ミニチュア・シュナウザー - 性差なし
- 肝外シャントは小型犬に多い
- 肝内シャントは大型犬に多い
猫の場合
- 先天性PSSの好発猫種
👉アメリカンショートヘア
👉チンチラ
👉雑種猫も多い - 肝外シャントが多い
先天性PSSは圧倒的に犬での発生が多いです。
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の症状は?
- 食後に無目的な徘徊
- 流涎
- 沈うつ
- けいれん発作
- 成長不良
- 膀胱結石による症状
👉排尿障害
👉血尿 - 無症状の場合もある
先天性PSSでは若い時に症状をみられることが多いです。
ただし、シャント血管の太さや位置によっては、ある程度年齢がいってから症状が出ることもあります。
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の診断は?
- 血液検査
・肝酵素(ALT、ALP)の上昇
・BUN(血中尿素窒素)の低下
・ALB(アルブミン)の低下
・T-cho(総コレステロール)の低下
・GLU(血糖値)の低下
・食後のNH3(アンモニア)上昇【食前/食後の比較】
・食後のTBA(総胆汁酸)上昇【食前/食後の比較】 - レントゲン検査
・小肝 - エコー検査
・シャント血管の描出
・門脈枝の狭小
・小肝 - CT検査
・異常血管の検出 - 肝生検
・後天性PSSの原因となる病気の精査
レントゲン検査:小肝所見
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の治療は?
先天性PSSの治療
- 手術(シャント血管の結紮)
・非吸収糸による完全結紮もしくは部分結紮
・アメロイドコンストリクター(AC)
・セロハンバンド(CB)
・コイル - 内科管理
後天性PSSの治療
- 原因となる病気の治療
- 内科管理
犬猫の門脈体循環シャント(PSS)の治療の 見通し(予後)は?
- 先天性PSSでは手術による完治が見込める。
👉内科管理で症状を抑える治療もできるが、外科治療の方が長期予後は良い。 - 先天性肝外PSSでは、術後早期の合併症が起こらなければ予後は良好。
👉術後発作症候群などの合併症 - 先天性肝内PSSでは、非常に難しい手術だが完治が可能なこともある。
- 後天性PSSでは原因となる病気(原疾患)の重症度により予後は異なる。
- Small Animal Internal Medicine 4th
- 『門脈体循環シャントのインフォームドコンセントのために』
SA Medicine Vol.16 No.3 2014