猫の口の痛みについて|自宅でできる緩和ケアを獣医師が解説
「猫が口を痛がる」
「よだれがダラダラと出て辛そう」
「ごはんを食べられない」
愛猫に口の痛みの症状があり、不安に思われていませんか?
口の痛みがあると、口を気にして辛そうな様子が見られたり、ごはんもうまく食べられなくなったりと、とても心配ですよね。
今回は猫の口の痛みについて解説したうえで、愛猫が少しでも快適に過ごせるようにするための緩和ケアについて詳しく紹介します。

ぜひ最後まで読んでいただき、ご家庭での愛猫のサポートにお役立てください。
猫の口が痛くなるとどんな症状が見られるのか?
猫の口に痛みが出ている場合、以下のような症状が見られます。
- よだれがダラダラと出る
- 口をくちゃくちゃする
- 口元を手足で掻く
- 食べたり飲んだりするのを嫌がる
- 口が臭う
- 顔を触られるのを嫌がる
口の痛みが強くなると、次第にものを口にすることができなくなり、時には全く食べたり飲んだりしなくなることもあります。
猫は口を開けるのを嫌がることが多く、ご家庭では口の中の異変に気付きづらいものです。
実際に、診察時にはすでに症状が進行している状態であることが多いと言われています。
愛猫に少しでも気になる症状が見られる場合には、早めに動物病院にかかりましょう。
猫の口の痛みの原因は何があるのか?
猫に口の痛みを起こす原因はさまざまで、複数の要因が絡まっていることも多いです。
代表的な原因には、以下のようなものがあります。
- 歯肉口内炎
- カリシウイルス感染症
- 口腔内腫瘍
代表的な原因について、詳しく解説します。
歯肉口内炎
歯肉口内炎とは、歯茎や舌、口の中の壁に炎症が起きた状態の病気です。
歯肉口内炎では、以下のような症状が見られます。
- 赤み
- 出血
- 潰瘍
- 多量のよだれ
- 痛み
- 口臭
口内の炎症が強い場合には、出血を伴ったり、潰瘍となることがあり、強い痛みにつながります。
歯肉口内炎の主な原因は、以下のようなものです。
- 免疫力低下を引き起こすウイルスの感染
- 口内細菌のバランスの崩れ
- アレルギー
- 歯石
歯肉口内炎の猫では免疫力が低下している場合があり、その背景には猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスの感染が関わっていることが多いと言われています。
猫白血病ウイルスや猫免疫不全ウイルスは生涯に渡り完治することがないため、歯肉口内炎のコントロールも大変難しくなります。
歯肉口内炎は口内細菌のバランスの崩れやアレルギーも要因の1つです。
歯石の存在から歯肉口内炎を引き起こすこともありますが、歯石の除去により改善が期待できます。
歯肉口内炎は長く付き合う病気となることも多いため、少しでも愛猫の痛みが和らぐよう緩和ケアを取り入れてあげたいものですね。
カリシウイルス感染症
カリシウイルス感染症は、口の中や舌に急速に潰瘍を作り、口の痛みを伴う病気です。
症状には口の中の潰瘍のほかに、くしゃみや鼻水といった風邪症状もあります。
症状はカリシウイルスに感染後1週間ほど続き、その後回復します。
カリシウイルス感染症はワクチンを打つことで予防できます。
カリシウイルス感染症から愛猫を守るためには定期的な予防接種が重要です。
口腔内腫瘍
口腔内腫瘍とは、口の中にできる腫瘍のことで、良性のものも悪性のものもあります。
口腔内腫瘍による口の中の状態はさまざまで、代表的なものは以下のようなものです。
- できものがある
- 腫れている
- 触るとしこりになっている
- 潰瘍ができている
- 出血している
猫の口腔内腫瘍の種類は、以下のようなものです。
- 扁平上皮癌
- リンパ腫
- 線維肉腫
- 線維腫
- 形質細胞腫
猫の口腔内腫瘍では、70〜80%が扁平上皮癌と言われています。
扁平上皮癌は悪性度が高く、急速に進行するため、予後が悪いと言われています。
腫瘍が良性か悪性かの診断には、腫瘍を取って顕微鏡で検査することが必要です。
猫の口の中に異変がある場合には、できるだけ早急に診察を受けていただくことをおすすめします。
猫の口の痛みはどんな治療をするのか?
猫の口の痛みに対する治療では、以下のような薬を使用します。
- 抗炎症薬
- ステロイド剤
- 食欲増進剤
- 抗生剤
- 痛み止め
歯石の付着や歯のぐらつきが見られた場合には、歯石除去や抜歯を行うことで、痛みの改善がみられます。
ウイルス感染がある場合には、抗ウイルス薬を併用します。
口腔内腫瘍が認められる場合には、腫瘍の外科的切除を行うこともあるでしょう。
猫の口の痛みの緩和ケアは何ができるのか?
猫の口の痛みは、体重低下や脱水など全身状態の悪化に繋がりやすいため、ご自宅での緩和ケアが重要です。
緩和ケアとして、
- 痛みのコントロール
- 口の中の環境管理
- 栄養管理
を行うことで、少しでも愛猫が快適に過ごせるようにサポートしていきます。
緩和ケアの内容について詳しく解説していきます。
痛みのコントロール
猫の口の痛みを和らげるために、痛み止めの内服や注射を行います。
抗炎症薬やステロイド等の治療薬も痛みの軽減に繋がります。
日々の服用が重要ですが、口の痛みがひどいときには薬の内服が難しいですよね。
治療薬には内服薬と同等の効果の注射薬もあります。
病院に行くのが難しい猫の場合には、ご家庭で注射することも可能です。



ご家庭での注射をご希望の方は、いつでもご相談ください。
口の中の環境管理
猫の口の中に異常がある場合、出血したり、よだれが多くなることがよくあります。
出血やよだれを放置していると更なる細菌感染等の悪化を招きます。
口の痛みを和らげるためにも口の中を清潔に保つことが重要です。
定期的に口の中や周りを清潔なガーゼで拭うと良いでしょう。
愛猫が嫌がる場合には、無理に実施する必要はありません。
猫が口を触れないようにエリザベスカラーを使用することもありますので、愛猫にあった方法を見つけましょう。
栄養管理
猫の口の痛みがひどい場合、うまくものを口にできなくなることがあります。
栄養失調や脱水にならないよう、栄養補給の工夫が必要です。
固形物を口にするのが難しい場合には、高栄養の流動食を用意し、シリンジ(注射器の本体部分)で少量ずつ猫の口に流し込みます。
水も同様にして、与えることができます。
口の痛みが喉まで続いている場合には飲み込むことも難しくなりますので、点滴を行うこともあります。
毎日の通院による点滴は、猫にも飼い主様にも大きな負担となります。
往診によるご家庭での点滴もおすすめです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
猫の口の痛みは、痛みによるQOLの低下だけでなく、栄養を口から摂取できないことから時には命にも関わる危険なものです。
完治が難しい場合も多いため、強い痛みや食欲不振に対しての緩和ケアがとても重要です。
愛猫が少しでも快適に過ごせるように、ご自宅でも口の中の環境管理や栄養管理を取り入れましょう。
当院では緩和ケア科を設けています。
猫が口を痛がっていてどうして良いかわからない場合や、往診についてご相談がある場合には、お気軽にご連絡ください。

