犬の皮膚メラノーマ|皮膚にできる黒い悪性腫瘍について獣医師が解説

犬の皮膚メラノーマ|犬の皮膚に黒いしこりができたら要注意!治療や緩和ケアについて獣医師が解説

犬の皮膚メラノーマは皮膚にできる黒い腫瘍のひとつです。
「うちの子の皮膚にほくろのような黒いしこりができている」
このような飼い主様もいらっしゃるのではないでしょうか。
犬の皮膚にできる黒いしこりは良性のものが多いですが、中には悪性腫瘍であるメラノーマの場合もあります。

今回は犬の皮膚メラノーマの特徴や治療法、そして病気の進行時に必要となる緩和ケアについて獣医師がわかりやすく解説します。

ぜひ最後までお読みいただき、愛犬の皮膚に黒いしこりができたときに役立ててください。

毛布の上で眠るミニチュアダックスフンド
目次

犬の皮膚メラノーマとは

犬の皮膚メラノーマは、黒い色素であるメラニンを作る細胞から発生する腫瘍です。
このため皮膚メラノーマは黒いしこりを形成し、ほくろのような見た目をしています。
実は犬の皮膚にできる黒い腫瘍はほとんどの場合、以下の2つの種類のいずれかです。

  • メラノサイトーマ(良性腫瘍)
  • メラノーマ(悪性腫瘍)

この2つは見た目だけでは区別できず、しこりの切除をした上で病理組織検査による診断が必要です。
また体のどこに黒いしこりができたかによって、悪性である確率が違うため注意が必要です。
犬の皮膚にできた黒いしこりの85%は良性のメラノサイトーマであり、悪性のメラノーマである確率は15%程度といわれています。
一方で以下の部位にできた場合、約50%が悪性であるといわれています。
具体的には以下の3つの部位です。

  • 口腔内
  • 皮膚と粘膜の境界部
  • 爪の根本

犬の体のどの部位にしこりができているかはとても重要であるため、必ず獣医師に確認してもらいましょう。

犬の皮膚メラノーマの治療

犬の皮膚メラノーマの治療は基本的に外科的切除が第一選択となります。
ここでは良性腫瘍であるメラノサイトーマと悪性腫瘍であるメラノーマに分けて治療法を解説します。

メラノサイトーマ(良性腫瘍)

メラノサイトーマの治療は外科切除が第一選択です。
メラノサイトーマは病理組織学的に良性と診断されたものであり、外科的に完全切除すれば再発や転移の心配はほとんどありません。
最初はメラノサイトーマであったしこりが悪性に変わったケースも報告されているため、はやめに切除することが大切です。

メラノーマ(悪性腫瘍)

メラノーマの治療も第一選択は外科切除です。
術後に病理組織検査によってメラノーマであることが確認されたら、再発防止のために放射線治療を行うこともあります。
ただ根治的な放射線治療は以下のような現実的なハードルがあるため、実施することが難しい場合がほとんどです。

  • 特殊な設備が必要
  • 費用が高額
  • 頻繁な通院(週に3〜5回)

このように簡単に受けられる治療ではないため、術後の放射線治療をせずに定期的なチェックを行って様子を見る場合も多いです。
またメラノーマは悪性腫瘍であるため、肺に転移して呼吸困難を起こすこともあるため注意が必要です。

横を見ている歳をとったビーグル犬

犬の皮膚メラノーマの予後と緩和ケア

犬の皮膚メラノーマの予後は腫瘍の分類と挙動によって大きく異なります。
また悪性腫瘍であるメラノーマの場合は、根治できずに緩和ケアが必要になることがあります。
メラノサイトーマとメラノーマに分けてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

メラノサイトーマ

メラノサイトーマは外科手術によって完治が可能であり、術後の生活にも大きな制限はありません。
その後の再発もまれであり一般的に予後は非常に良好です。
術後は定期的な皮膚チェックと、他部位への新たな腫瘍発生への注意が必要です。

皮膚メラノーマ

皮膚メラノーマは転移など悪性の挙動をとるため予後は悪く、病気が進行すると緩和ケアが必要になることもあります。
とくに腫瘍が術後に再発して、肺やリンパ節に転移した場合は予後が悪いです。
そのような場合、犬が少しでも楽に過ごせるように以下のような緩和ケアを行うことがあります。

  • 鎮痛薬の使用
  • 酸素室の使用
  • 緩和的放射線療法

ひとつずつ見ていきましょう。

鎮痛薬の使用

鎮痛薬は腫瘍による痛みを緩和して、生活の質を上げることを目的に投与されます。
鎮痛薬は以下のような種類があり、状況に応じて使い分けます。

  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)
  • オピオイド鎮痛薬
  • 医療用麻薬

往診の場合でもこれらの鎮痛薬を使うことができますので、愛犬が腫瘍による痛みで苦しんでいる場合は遠慮なくご相談ください。
また鎮痛薬は生活の質を上げるために継続的に投与することも多いですが、腎臓や消化器に異常があると使用できない場合もあるため注意が必要です。

酸素室の使用

酸素室の使用は、腫瘍が肺に転移して呼吸困難が生じた場合の緩和ケアとして有効です。
その際には自宅で使える酸素室をレンタルできるサービスを利用するとよいでしょう。
当院でも酸素室のレンタルサービスを紹介していますので、必要だと判断した際は酸素室の利用をお勧めすることがあります。

緩和的放射線治療

緩和的放射線治療は腫瘍による痛みや出血を緩和することを目的に実施されます。
根治を目的としないため、放射線の照射回数は週に1回程度と根治的放射線療法よりも少ないです。
またトータルの放射線量も少ないため副作用が出にくいというメリットがあります。
根治的放射線治療よりは負担が少ないとはいえ、専門の施設に通う必要があるため現実的には実施するのは難しいことが多いです。

まとめ

犬の皮膚に黒いしこりができた場合、良性のメラノサイトーマであることが多いです。
しかし悪性腫瘍のメラノーマである場合もあるため、はやめに動物病院に相談しましょう。

当院では犬の皮膚メラノーマに対する緩和ケアも行っております。

メラノーマに苦しむ愛犬が少しでも楽に過ごすためのケアについては、当院にお気軽にご相談ください。

在宅緩和ケア専門動物病院「犬と猫の緩和ケア」
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