猫の胸水について|胸腔ドレーンって何?緩和ケアの獣医師が解説

箱に入っている悲しい顔をしている猫

猫の胸水について|胸腔ドレーンって何?緩和ケアの獣医師が解説

「うちの猫、最近元気がないし呼吸もおかしい気がする。」
「猫があんまり動かなくて、食欲もないし苦しそう。」
猫がこんな状態の時、もしかしたら胸水かもしれません。
胸水とは簡単に言うと「胸に液体が溜まる」状態のことです。
胸水は重症度によっては直ちに命に関わることもある怖い病態です。
今回はこの猫の胸水と胸水の対症療法として行う胸腔ドレーンの設置についても解説します。

ぜひ最後までお読みいただき、愛猫の命を守るための知識を深めましょう。

目次

胸水とは

胸水とは胸腔内に液体が異常に溜まってしまう状態のことです。
胸腔とは胸部にある空間のことで、胸腔の中には肺や心臓などが収まっています。
胸腔には通常の状態でも少量の液体が存在し、肺が滑らかに動くのを助けています。
しかし胸腔に過剰な液体が溜まると肺が圧迫され、正常な呼吸ができなくなってしまいますよね。
この状態が胸水です。

胸水の種類

胸腔内に溜まる液体にはいくつか種類があります。
胸水の種類には

  • 乳び胸
  • 血胸
  • 膿胸

などがあり、それぞれの胸水の種類によって考えられる原因も異なります。
それぞれについて詳しく説明していきましょう。

乳び胸

「乳び」とはリンパ液のことです。
何らかの原因でリンパ液の流れが滞り、リンパ管が破裂すると胸腔内に乳びが貯留します。
この状態を乳び胸といいます。
乳びは乳白色の液体で、脂肪やタンパク質を多く含みます。

血胸

血胸とは胸腔に血液が貯留した状態のことです。
事故の外傷、腫瘍などが原因であることが多いですね。

膿胸

膿胸とは膿が胸腔内に貯留した状態です。
膿は細菌感染が原因で産生されます。
異物の侵入、外傷、などが原因であることが多いです。

胸水の症状

重なって寝ている2匹の猫

猫の胸水で最も代表的な症状は呼吸困難です。
胸腔内に液体が過剰に溜まると肺は正常に拡張できなくなり、呼吸困難になります。
呼吸困難の時の猫では

  • 呼吸が浅く、速くなる
  • 開口呼吸をする
  • 口の粘膜や舌が青白くなる(チアノーゼ)

などの症状がみられます。
他にも

  • 体力の低下
  • 脱水症状
  • 食欲不振

などの症状がみられることもありますね。
いずれの場合も速やかに動物病院で処置を受ける必要があります。

猫に上記のような症状がみられたら、迷わず動物病院に連れて行きましょう。

胸水の治療

猫の胸水の治療は原因となる病気への対処です。
心臓病が原因の場合は心臓の治療、腫瘍が原因であれば腫瘍の除去や治療を行います。
しかし、重度の呼吸困難がある場合は緊急的に胸水を除去しなければなりません。
胸水を除去する処置には

  • 胸腔穿刺
  • 胸腔ドレーンの設置

などの方法がありますね。
これにより胸水が除去され、肺への圧迫が軽減されることで呼吸が楽になります。
それぞれの処置について説明していきます。

胸腔穿刺

胸腔穿刺とは、超音波検査のガイド下で肋骨の間に針を刺して胸水を抜く処置のことです。
これは暴れない猫であれば無麻酔で行うことができます。
しかし、胸腔穿刺では肺などを傷つけてしまう危険性があります。
また、繰り返す胸水では何度も針を刺さなくてはなりません。

胸腔ドレーンの設置

胸腔ドレーンとは胸腔内にチューブを設置して、継続的に胸水を排出できるようにするものです。
胸腔穿刺のように無麻酔で行うことはできず、全身麻酔をかけて設置しなければなりません。
少し大掛かりな処置に思えるかもしれませんが、それだけのメリットがあります。
胸腔ドレーンを設置することで何度も針を刺さなくても、猫の状態が落ち着くまで胸水が溜まらないようにすることができます。
胸腔ドレーンを設置すると胸水を抜くだけでなく胸腔内を洗浄することも可能です。
特に膿胸では細菌感染が問題となるため、胸腔内の洗浄は重要です。

「胸腔ドレーンは一度設置したらずっとそのままなの?」

そう思う方もいらっしゃるかもしれません。
胸腔ドレーンは胸水を抜くことや洗浄することが目的です。
そのため胸水の量が減少すれば胸腔ドレーンは取り外すことができます。

まとめ

抱っこされている猫

いかがでしたでしょうか?

胸水で呼吸困難になってしまった時、手術で胸腔ドレーンを設置すれば猫の苦しさを軽減してあげることができるかもしれません。
胸水、特に膿胸の治療では抗菌薬や胸腔穿刺のみで改善が乏しい時にそのまま同じ治療を継続してしまうと、肺の癒着や膿瘍の形成が起こる場合があります。
そうなると治療が難しくなることもありますし、猫が苦しむ時間が長引くこともあります。

胸腔ドレーンのような積極的な治療を早期に行うことで、より早期の回復を期待できますね。

「うちの猫は高齢で、手術に耐えられるか不安。」
「持病がある猫に全身麻酔をかけるなんて心配だわ。」
このように考える方もいらっしゃいますよね。
当院では、麻酔科を専門で担当する獣医師が麻酔管理を行っています。
高齢や持病がある猫でも、それぞれの状態に合わせた安心な麻酔管理で手術を受けていただくことができます。
「うちのこ、胸水かもしれない……。」
そんな時はぜひ当院にご相談ください。

在宅緩和ケア専門動物病院 犬と猫の緩和ケア
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