犬の変性性脊髄症は中高齢犬にみられる進行性の神経疾患です。
後ろ足のふらつきから始まり、ゆっくりと前肢や呼吸筋にも影響がでてくる怖い病気です。
変性性脊椎症は残念ながら現時点では根本治療がありません。
しかし適切な緩和ケアによって進行を遅らせたり、痛みや不安を減らし愛犬のQOL(生活の質)を保ってあげることは可能です。
この記事では、犬の変性性脊髄症の緩和治療の種類や注意点などを詳しく解説いたします。

ぜひ、最後までお読みいただき変性性脊髄症と診断された犬との過ごし方の参考にしてください。
犬の変性性脊髄症とは?
犬の変性性脊髄症は、主に中〜高齢期に発症する進行性の神経疾患です。
他の神経疾患と異なり、痛みがほとんどないことが特徴です。
後ろ足の麻痺から始まり、ゆっくりと身体全体に麻痺が進行していきます。
最終的に歩行不能・排泄困難・呼吸の問題に至ることがある怖い病気です。
この病気は、以下のような特定の犬種で多く見られるため注意が必要です。
- ジャーマン・シェパード・ドッグ
- ウェルシュ・コーギー(ペンブローク)
- ボクサー
- プードル(トイ・スタンダード)
- バーニーズ・マウンテン・ドッグ
- シベリアン・ハスキー
変性性脊髄症は確定診断が難しい病気で、その他の疾患を除外することで診断されます。
残念ながら根治治療はなく、治療の中心は緩和ケアとなります。
犬の変性性脊髄症の緩和ケア
変性性脊髄症は根治ができない病気で、治療の基本は対症療法となります。
しかし、症状が進行してもなるべく穏やかで快適な生活をできるようにしてあげることは可能です。
そこで重要になってくるのが「緩和ケア」というものです。
変性性脊髄症の緩和ケアの目的は主に3つあります。
- 痛み・不快感を最小限にすること
- 免疫・体重・筋力を維持すること
- ストレスを減らし、穏やかな環境で過ごすこと
変性性脊髄症ではゆっくりと病期が進行していくので、病期に応じて生活の質を維持できるようにケアをしてあげることが大切です。



具体的な緩和ケアの方法をひとつずつご紹介します。
適度な運動とリハビリ
変性性脊髄症の進行を遅らせ、筋力を維持するために最も重要とされている分野です。
ご自宅でできるものに関しては、毎日継続することが大切です。
主な方法は以下のようなものがあります。
水中トレッドミル・スイミング
水中の浮力で負担を減らしつつ、歩行筋を維持することができます。
トレッドミルのある動物病院や施設は限られているため、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。
軽い散歩
無理のない距離の短時間の散歩の回数を増やすことが理想です。
歩くことで筋力の維持ができ、ストレス解消にもなります。
ストレッチ、マッサージ
ストレッチを行うことで筋肉の拘縮(筋肉がこり固まる)を防ぎ、関節の可動域を維持することに役立ちます。
愛犬のストレッチを行う際は、関節を優しく曲げ伸ばししてあげましょう。
また足を優しくマッサージしてあげることで、血行改善や筋萎縮の予防になります。
ストレッチやマッサージは、獣医師や専門家の指導を受けながら実施していきましょう。
栄養管理
適切な栄養をとり、筋肉量を維持することも緩和ケアにとって重要です。
- 適正な量のタンパク質を摂取する
- 体重管理を徹底する
- 消化良好なフードを選択する
バランスのとれた食事、良質なタンパク質を摂取することで筋力の維持に繋がります。
また関節に負担をかけないように適正な体重を保っていくようにしましょう。
生活環境の工夫
変性性脊髄症が進行すると、歩行が困難になるため、以下のように家の中での転倒や擦過傷を防ぐことが重要です。
- 滑りどめマットの使用(ジョイントマット・カーペット)
- 補助ハーネスの使用(立ち上がり・歩行サポート)
- 段差の解消
- 排泄しやすい環境づくり
皮膚・褥瘡(床ずれ)のケア
後ろ足の麻痺が進行すると寝たきりに近くなり、床ずれのリスクが高まります。
床ずれは一度できると治りにくく、強い痛みや感染の原因にもなります。
主なケアとしては、
- 2〜4時間ごとの体位変換
- 柔らかいベット・介護用マットの使用
- 皮膚を清潔に維持
- 床ずれのできやすい部位(肩・肘・頬など)の保護
などが一般的です。



皮膚の赤みやただれがみられた場合には、早めに動物病院へ相談しましょう。
排泄のケア
後肢の麻痺が進行すると、自力で排泄が難しくなることがあります。
主な対策として
- トイレ誘導の補助
- おむつ・介護パンツの使用
- 陰部の清拭による皮膚トラブルの予防
- 排尿補助(獣医師指導のもとで実施)
などがあります。
心のケア
変性性脊髄症によって今までの日常生活を送れなくなくなることは、犬にとって大きなストレスとなる場合があります。
愛犬が「家族と一緒に過ごし、触れられている」ことが大きな安心になります。
積極的に声をかけたり触れたりなどの、スキンシップを行うことはとても有効です。
できる範囲での遊びで刺激を与えたり、外気浴による気分転換なども行うと良いでしょう。


変性性脊髄症の進行ステージ別の緩和ケアまとめ
変性性脊髄症は数年にわたってゆっくり進行するため、ステージによって緩和ケアの内容も変わっていきます。
介護生活はご家族にとっても負担になる場面も多いかもしれません。
ご家族と愛犬にとってベストな方法を見つけていきましょう。
初期(後ろ足のふらつき、引きずり)
- 運動量を適度に維持する
- 床の滑り止め対策をする
- リハビリを習慣化する
中期(後ろ足の麻痺、歩行困難)
- 介護ハーネスによる歩行補助を行う
- 水中のリハビリの併用する
- 床ずれ防止を開始する
- 排泄ケアを強化する
末期(前肢への進行、寝たきり)
- 皮膚ケアと体位変換をこまめに実施する
- 呼吸状態の観察を行う
- 食事・水分摂取の補助をする
- 疼痛や不快症状の緩和を実施する


まとめ
犬の変性性脊髄症は根治治療ができない病気ですが、適切な緩和ケア・リハビリ・環境整備によってQOL(生活の質)を大きく保つことができます。
早期からケアを始めることで、
- 歩ける時間が長くなる
- 介護がスムーズになる
- 愛犬のストレスが少なくなる
といった効果を期待できるでしょう。
当院は緩和治療に力をいれています。
愛犬の状況(体格、進行度、家庭環境)に合わせて、その子に合ったケアプランを一緒に考えご提案することも可能です。



お困りの際はいつでもご相談ください。













